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徳島家庭裁判所 昭和62年(少ハ)1号 決定

少年 N・Y子(昭46.12.15生)

主文

少年を初等少年院に戻して収容する。

理由

(申請の理由の要旨)

少年は、昭和62年2月5日、徳島家庭裁判所において、ぐ犯の非行により初等少年院送致決定(一般短期処遇)を受けて丸亀少女の家に収容され、同年7月10日同少年院を仮退院し、以来徳島保護観察所の保護観察下にある者であるが、仮退院に際し、犯罪者予防更生法34条2項所定のいわゆる一般遵守事項及び同法31条3項により四国地方更生保護委員会が定めた特別遵守事項、すなわち、「これまでつきあった不良仲間とは、決して交際しないこと」(同3号)、「我がままを言ったり、自分勝手なことをせず、規則正しい生活をすること」(同4号)、「すすんで保護司を訪ね、何事も保護司や両親に相談し、その指導に従うこと」(同5号)などの遵守を誓約した。

しかるに、少年は、

1  昭和62年7月11日午後3時ころ、居住すべき住居である徳島市○○町○○×番地の×の実父N・Mのもとから出奔し、住居を転々として、同年9月1日午前9時30分徳島保護観察所に引致されるまでの間、所在を明らかにせず徒食し、

2  同年7月11日から同月末ころまでは、同市○町×丁目××番地○町ビルに、同年8月初めころから同月25日ころまでは、同市○○町市営住宅×号館に、更に同月25日ころから同月30日ころまでの間は、同市○○町××の××の住所地において、同市内の暴力団○○会に出入りするA(当17年)と同棲し、

3  同年7月11日担当保護司を訪問したものの、翌12日以降前記引致されるまでの間一度も連絡・接触することなく、両親の指導にも従わず放恣な生活を続け、

4  公安委員会の運転免許を受けないで、同年8月4日午後2時15分ころ、同市○○町×丁目×「○○店」先道路上において、前記A所有の原動機付自転車を運転した

ものであり、1の行為は一般遵守事項1号「一定の住居に居住し、正業に従事すること。」に、2の行為は一般遵守事項3号「犯罪性のある者又は素行不良の者と交際しないこと。」及び前記特別遵守事項3号に、3の行為は前記特別遵守事項4号、5号に、4の行為は一般遵守事項2号「善行を保持すること。」に、それぞれ違反している。

以上のとおり、少年は遵守事項違反を続けており、仮退院後の行状、その他諸般の情状を考慮しても、現状においては保護観察による更生が期待できず、少年を少年院に戻して収容することが相当である。

(当裁判所の判断)

本件少年保護事件記録、少年調査記録及び当審判廷における少年の供述によれば、申請の理由の要旨記載の事実のほか、次の事実が認められる。

1  仮退院以後の少年の主な関心は、以前同棲していた暴力団構成員Aとの交際の復活及びそれを維持、発展させることにあり、かつ、Aに夢中で同人の言いなりになり、同人以外の者のいうことには聞く耳を持たないという状態であった。

2  少年は、Aとの同棲生活を復活させた後の昭和62年7月30日、たまたま実父母方に立ち寄ったが、その際実父母に無断で家にあった3000円位を持ち出した。

そうすると、申請の理由の要旨記載の事実は同要旨が指摘するところの各遵守事項に、上記1の事実は前記特別遵守事項4号、5号に、同2の事実は前記一般遵守事項3号にそれぞれ違反していることが明らかである。

少年は、幼少時に両親が離婚し、以後母親に引き取られたが、母親が精神科に入院したため以後母方祖父母の下で甘やかされて育ち、けじめのある適切な躾を受けなかったので、小児的な未熟さを残すほか、我がままで自己中心性が強く、中学1年生ころから問題行動を起こすようになった。そこで、両親は、少年の身を案じて、少年の中学2年時に再婚し、協力して少年の監護に当たり、少年の不良交友などを断つべく少年を転校させるなどしたが、少年の生活の乱れは一向に変わらず、特に昭和61年8月(中学3年時)前記Aと交際するようになってからA宅に入り浸り、無断外泊、怠学等を繰り返した。そのため、少年は、ぐ犯の非行により昭和61年10月7日保護観察に付せられ、更に昭和62年2月5日初等少年院送致に処せられ、矯正教育などを受けたが、今回仮退院を許され帰宅すると、またもやAとの交際を復活させるべく前記のとおり無軌道な行動に走ったものである。ところで、当裁判所は、本件申請事件につき、同年9月24日少年を兵庫県津名郡(淡路島)内の寿司店経営B方に補導委託して試験観察に付したが、少年は翌25日補導委託先を無断で抜け出したので、少年に最後のチャンスを与えるべく、翌26日在宅試験観察に切り替えたが、少年は調査官の献身的指導にもかかわらず、程無くAとの接触をもつべく無断外泊等を繰り返した。このように、少年の生活態度は、少年院収容前と基本的には変化がなく、また、少年は自己の問題点を直視しようとせず、内省は深まっていない。

かくの如く無軌道な少年に対して、少年の両親、祖父母とも監護能力はなく、現在では監護意欲さえも失っており、少年の戻し収容を望んでいる。

以上の次第で、少年には自己の問題点を直視してそれを改善しようとする意欲がなく、あるいは内省が深まっておらず、保護者等には監護能力と監護意欲が欠けており、少年の現状では保護観察所による指導も効果を挙げられないと思われるので、この際、少年を初等少年院に戻して収容し、規律正しい集団生活の中で自己の問題点を自覚させ、自己中心的かつ要求固執的性格を直し、他人に思いやりのある、また忍耐強い性格を身につけさせ、自己統制力の強化を図り、更に健全な異性観、生活観を養わせるのが相当である。

よって、犯罪者予防更生法43条1項、少年審判規則55条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 片岡勝行)

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